全国証券問題研究会横浜大会
全国証券問題研究会 http://www2.osk.3web.ne.jp/~syouken/の全国大会が9月7日、8日に開催されました。今回はこの全国大会の内容を少しご紹介してみます。
(入門事例&電話録音など)
全国大会初日は、具体的な事例(80歳を超え、認知症状すら呈している高齢者に証券会社が複雑な投資信託を売りつけたケース)を素材に、同事案を担当した弁護士が、事件発覚から訴訟係属後の証券会社の対応等について発表するという内容で始まりました。
この訴訟は顧客側の勝訴的和解で終わっていますが、その決定打となったのが、訴訟において証券会社側が証拠として提出した「電話録音」だったようです。
少し話が脱線しますが、現在では大手証券会社の多くが電話録音をしているようです。この「電話録音」は、後日、証券会社と顧客との間で取引に関してトラブルが起きた場合に取引時のやり取りがどのようなものであったかを後から知るための重要な証拠です。
証券会社の担当者は、電話口での会話が録音されていることを十分意識していますから、顧客としてもそれを踏まえて担当者の説明に疑問があるときは会話中できちんと疑問を伝えることが重要です。また、約定など取引の重要な場面で担当者が私物の携帯電話などを使用して約定を進めようとする場合(録音を回避しようとしている可能性があります。)、慎重な取引を心がけるならばこれを問い質すことも必要かもしれません。
今回取り上げられたケースは認知症状を呈している方のケースでの勝訴的和解でしたが、そのような事情がない場合、裁判所の判決では顧客側の自己責任が問われることがまだまだ多いのが実情です。
顧客側の少しの「心構え」も大切だと感じます。
(クーポンスワップ事件報告)
その後、京都大学法科学研究科教授の潮見佳男先生の講義や、台湾の金融ADR機関のセンター理事長である林國全先生の先端的なお話などを経て、最近のクーポンスワップに関する勝訴事件(大阪地裁平成24年4月25日判決)の報告がありました。
ここで、クーポンスワップというものについても少しご紹介してみます。
クーポンスワップとは、文字通りクーポン(=金利)のスワップ(=交換)をする相対取引のことです。個人の日常生活の感覚では「なぜ金利の交換をしなければならないのだろう?」と私もはじめは疑問に思いましたが、外貨で商売をする人にとって金利の交換は、為替変動リスクのヘッジという効果があるのだそうです。例えば、商売上米ドルで債務を負うと米ドルで金利を支払うことになりますが、日本を商売の本拠としている者にとっては、ドル高円安となった場合に思わぬ円貨での金利負担増のリスクを負うことになります。この時予め米ドルの金利を日本円の金利と交換(スワップ)をしておけば、将来に渡り支払うべき金利は円貨で予め確定され無用なリスクを避けることができます。
このようにクーポンスワップは為替リスクヘッジに役立つ取引ですが、ヘッジ目的無しにされることもあります。報告された事案は、ヘッジ目的の無い純然たる「投資」としてクーポンスワップがされていた事案でした。
ヘッジ目的の無いクーポンスワップの場合、証券会社や銀行は、顧客に対し「出来上がった商品」(取引条件について協議の余地がない)として一定の条件のスワップ取引を持ちかけることが多いです。これは通貨オプションについても言えることです。
事案の「商品」は、顧客の円貨想定元本に対する円金利と証券会社の豪ドル想定元本に対する豪ドル利息を2年半に渡り3箇月毎に交換するというものでした。
この取引は本来であれば、円高豪ドル安となると顧客が儲かり証券会社が損をし、円安豪ドル高の場合、顧客が損をし証券会社が儲かるという取引です。
しかし、「出来上がった商品」であるその「商品」には、証券会社の損を限定する早期償還の仕掛けや、顧客が利益を得られたとしても「1」であるのに対し、損失は「3」を覚悟しなくてはならないという仕掛けが付いていました。また、顧客の側から中途解約は原則出来ず、中途解約するには多額の解約清算金が必要でした。
大阪地裁平成24年4月25日判決は、このようなクーポンスワップの特性を踏まえて、勧誘担当の証券会社の従業員は、顧客が被ることになる最大損失や、中途解約をするには多額の解約清算金が必要となることを十分に説明しなければならないという判断を示しました。これは一つの裁判所での判断に過ぎませんが、商品が複雑で顧客にとってリスクが高いものであることを考えれば、そのような商品については証券会社に広い範囲での説明義務が課されることが望まれます。
当研究会もそのような流れを作る一助となるよう日々研鑽を重ねて参ります。(文責:木野祐子)