金地金分割前払い取引について
金地金分割前払い取引による被害について、当会の会員の取得した判例をご紹介します。
東京高裁平成26年10月30日判決(確定)
【事案の概要】
訪問販売による、いわゆる金地金の長期分割前払い取引で、契約に基づき中途解約した際の清算において、契約手数料99万6000円(購入代金の10.5%)および口座管理費及び情報料等3万円を返還しないことが特定商取引法10条1項4号に違反して無効であるとして、不当利得返還請求を行った。
【判決の内容】
訪問販売による金の売買契約において、金の引渡し前に契約が解約されていることから、特定商取引法10条1項4号に該当し、販売業者は、「契約の締結及び履行のために通常要する費用の額」を超えて購入者に請求することができないとして、手数料不返還条項および管理費等不返還条項の同号違反による無効を認め、101万6000円の返還を命じた。
【担当弁護士】上田孝治
商品先物取引(国内公設市場)について
商品先物取引(国内公設市場)による被害について、当会の会員の取得した判例をご紹介します。
神戸地裁平成26年1月29日判決
【事案の概要】
60歳代の男性が、商品先物取引の受託を業務とする商品取引業者の従業員から勧誘を受けて、先物取引をしたところ、勧誘及び取引経過に適合性原則違反、説明義務違反等の違法があって損害を被ったとして、損害賠償請求した事案である。
【判決の内容】
本判決は、外務員及び管理部の、商品取引に関するリスク説明、とりわけ両建等の説明について説明義務違反があり、かつ新規委託者保護違反や無意味な売買(誠実公正義務違反、善管注意義務違反)等があるとして、商品先物会社の勧誘及び取引経過に違法があるとし損害賠償責任を認めた(委託者の過失相殺を1割に止めている)。
【関連判例】
商品先物取引における損害賠償における過失相殺否定例としては、近時の神戸研究会のメンバーが獲得した判例としては、神戸地判平成18年2月15日、神戸地判同年5月12日、神戸地判同年12月19日判決、神戸地判平成19年1月19日判決、神戸地判同年3月20日判決、神戸地判尼崎支部19年9月26日、神戸地判同年12月27日判決等がある。
【担当弁護士】 内橋一郎
株の信用取引・過当取引被害について
株式の信用取引・過当取引被害について当会会員が取得した判例をご紹介します。
大阪地裁平成25年1月11日判決
【事案の概要】
投資経験の乏しい30歳代の女性が平成15年から24年頃までの信用取引を中心とする株式取引等の過当取引(取引回数637回、損害額約6000万円)により多額の損害を被ったケースにつき、証券会社に損害賠償請求を行った。
【判決の内容】
本判決は、取引開始以後の経緯、本件取引の取引回数・保有期間・損失額における手数料の割合・回転率、安定重視という投資意向に沿わない取引も少なからず行われていること、原告が被告担当者の言いなりになっていた実態等に照らし、本件取引は全体として適合性原則に違反し、過当に行われたもので、被告担当者の勧誘行為は全体として不法行為を構成するとして証券会社に損害賠償責任を認めた(過失相殺4割)。
【関連判例】
過当取引は、当初は米国での判例法理に基づくものでしたが、大阪地裁平成9年8月29日判決(判時1646−113、過失相殺5割)が過当取引の違法を認めて以来、現在では我が国の裁判例も数十のものがあります。
当研究会でも、15年の証券取引の経験のある会社経営者が平成11年6月〜12年3月の10か月で855回の信用取引を行い約1億数千万円の損害を被ったケース(大阪高裁16年10月5日判決)、「株が趣味」と自負するベテラン投資家が外務員から勧誘され平成11年12月8月までに113回の信用取引を行い7千数百万円の損害を被ったケース(大阪高裁16年11月5日判決)、昭和58〜59年頃から合計7社の証券取引の経験があるベテラン投資家が平成11年8月〜12年3月頃迄信用取引を中心とした432回の取引で7千数百万円の損害を被ったケース等で過当取引の違法が認められ、損害賠償責任を認める判例(大阪高裁20年8月27日判決=判時2051−61)や勝訴和解例等の判決を獲得しています(但しこの三者は限界事例であり、過失相殺も小さくはありません)。
【担当弁護士】 内橋一郎
全国証券問題研究会横浜大会
全国証券問題研究会 http://www2.osk.3web.ne.jp/~syouken/の全国大会が9月7日、8日に開催されました。今回はこの全国大会の内容を少しご紹介してみます。
(入門事例&電話録音など)
全国大会初日は、具体的な事例(80歳を超え、認知症状すら呈している高齢者に証券会社が複雑な投資信託を売りつけたケース)を素材に、同事案を担当した弁護士が、事件発覚から訴訟係属後の証券会社の対応等について発表するという内容で始まりました。
この訴訟は顧客側の勝訴的和解で終わっていますが、その決定打となったのが、訴訟において証券会社側が証拠として提出した「電話録音」だったようです。
少し話が脱線しますが、現在では大手証券会社の多くが電話録音をしているようです。この「電話録音」は、後日、証券会社と顧客との間で取引に関してトラブルが起きた場合に取引時のやり取りがどのようなものであったかを後から知るための重要な証拠です。
証券会社の担当者は、電話口での会話が録音されていることを十分意識していますから、顧客としてもそれを踏まえて担当者の説明に疑問があるときは会話中できちんと疑問を伝えることが重要です。また、約定など取引の重要な場面で担当者が私物の携帯電話などを使用して約定を進めようとする場合(録音を回避しようとしている可能性があります。)、慎重な取引を心がけるならばこれを問い質すことも必要かもしれません。
今回取り上げられたケースは認知症状を呈している方のケースでの勝訴的和解でしたが、そのような事情がない場合、裁判所の判決では顧客側の自己責任が問われることがまだまだ多いのが実情です。
顧客側の少しの「心構え」も大切だと感じます。
(クーポンスワップ事件報告)
その後、京都大学法科学研究科教授の潮見佳男先生の講義や、台湾の金融ADR機関のセンター理事長である林國全先生の先端的なお話などを経て、最近のクーポンスワップに関する勝訴事件(大阪地裁平成24年4月25日判決)の報告がありました。
ここで、クーポンスワップというものについても少しご紹介してみます。
クーポンスワップとは、文字通りクーポン(=金利)のスワップ(=交換)をする相対取引のことです。個人の日常生活の感覚では「なぜ金利の交換をしなければならないのだろう?」と私もはじめは疑問に思いましたが、外貨で商売をする人にとって金利の交換は、為替変動リスクのヘッジという効果があるのだそうです。例えば、商売上米ドルで債務を負うと米ドルで金利を支払うことになりますが、日本を商売の本拠としている者にとっては、ドル高円安となった場合に思わぬ円貨での金利負担増のリスクを負うことになります。この時予め米ドルの金利を日本円の金利と交換(スワップ)をしておけば、将来に渡り支払うべき金利は円貨で予め確定され無用なリスクを避けることができます。
このようにクーポンスワップは為替リスクヘッジに役立つ取引ですが、ヘッジ目的無しにされることもあります。報告された事案は、ヘッジ目的の無い純然たる「投資」としてクーポンスワップがされていた事案でした。
ヘッジ目的の無いクーポンスワップの場合、証券会社や銀行は、顧客に対し「出来上がった商品」(取引条件について協議の余地がない)として一定の条件のスワップ取引を持ちかけることが多いです。これは通貨オプションについても言えることです。
事案の「商品」は、顧客の円貨想定元本に対する円金利と証券会社の豪ドル想定元本に対する豪ドル利息を2年半に渡り3箇月毎に交換するというものでした。
この取引は本来であれば、円高豪ドル安となると顧客が儲かり証券会社が損をし、円安豪ドル高の場合、顧客が損をし証券会社が儲かるという取引です。
しかし、「出来上がった商品」であるその「商品」には、証券会社の損を限定する早期償還の仕掛けや、顧客が利益を得られたとしても「1」であるのに対し、損失は「3」を覚悟しなくてはならないという仕掛けが付いていました。また、顧客の側から中途解約は原則出来ず、中途解約するには多額の解約清算金が必要でした。
大阪地裁平成24年4月25日判決は、このようなクーポンスワップの特性を踏まえて、勧誘担当の証券会社の従業員は、顧客が被ることになる最大損失や、中途解約をするには多額の解約清算金が必要となることを十分に説明しなければならないという判断を示しました。これは一つの裁判所での判断に過ぎませんが、商品が複雑で顧客にとってリスクが高いものであることを考えれば、そのような商品については証券会社に広い範囲での説明義務が課されることが望まれます。
当研究会もそのような流れを作る一助となるよう日々研鑽を重ねて参ります。(文責:木野祐子)
金融ADR制度とは?
少し前の朝日新聞(2012年6月7日付)に、「円高 金融商品で大損失 中小企業 解決あっせん申請4倍」という記事がありました。
記事では、円高によって、中小企業などが購入した為替デリバティブに損失が出ており、全国銀行協会が設けている金融ADRへのデリバティブ関連のあっせん申立てが、10年度の172件から、11年度は749件に、4倍以上も増えているとの紹介があり、今後も申立てが増加する可能性が高いとされています。
今回は、この金融ADRの制度について、少し説明させていただこうと思います。
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金融ADRは、金融取引のトラブルを対象とした、裁判外の紛争解決の制度です。
中立のあっせん人のサポートを受けつつ、裁判外での話し合いで紛争の解決を目指す制度といえます。
銀行から為替デリバティブを売りつけられて損害を被ったようなケースですと、全国銀行協会が設立した金融ADRに申立てをすることができます。
この場合、銀行側には、①応諾義務(=原則、手続きへの参加を拒否できない)、②説明義務(=事実関係を説明し、資料の提出をしなければならない)、③受諾義務(=和解案を尊重し、あるいは、「特別調停案」が出された場合には受諾義務を負う)という、各種の義務が課されています。利用者保護の観点から、銀行側にこれらの義務を課すことになっているのです。
銀行側にこれらの義務を課すことによって、トラブルを迅速かつ適切に解決することが目指されています。
金融ADRについては、もちろん、自力で行うこともできますが、やはり専門性の壁もあり、このような問題に詳しい弁護士の援助を得ることが、より良い解決につながると思います。また、金融ADRでは解決できず、訴訟を行うべき案件もありますが、そのような場合もやはり弁護士による援助が必要になるでしょう。
当研究会では、このような事案の被害救済に対応すべく、研鑽を重ねています。
例会は2か月に1回行われており、証券被害に関する判例分析や全国研究会の発表内容に関する報告などを行い、意見交換・情報交換を行っています。
また、有志の会員で、月に1回、金融商品関係の文献の輪読会を行っています。最近では、デリバティブ商品に関する文献の輪読を行っています。
証券・先物取引による被害にあったのではないかと悩まれている方は、まず、当研究会に相談されてみてはいかがでしょうか。(文責:加藤昌利)
全国大会について
このブログの冒頭にもあるように,本研究会は,兵庫県に在籍する先物取引被害や証券取引被害の救済に取り組んでいる弁護士からなるグループです。
そして,同様のグループは全国に存在し,これら各グループが集まって先物取引及び証券取引に関してそれぞれ年2回ずつ全国規模の研究会を開催しています。
今回は,本研究会を含めた全国の弁護士のメンバーが日ごろ行っている研究の一端をご紹介するため,平成24年3月16日・17日に神戸において開催された「第45回全国証券問題研究会・神戸大会」(以下では,「全国大会」といいます。)の内容の一部について,お話しします。
①日本証券業協会自主規制規則の解説
大会の初日では,近年のデリバティブ取引等に関する被害拡大を受け,金融庁が業者によるデリバティブ取引等の勧誘についての規制を強化し,これに合わせて日本証券業協会も自主規制規則を改正した点につき,日本証券業協会の担当者から説明を受けました。
このように協会担当者が直接出向いてこられ,説明をするというのは,全国の弁護士が結集した賜物と言えるかも知れません。
②金融ADR制度について
また,同じ日には,最近利用が増加しているといわれている金融ADR(証券・金融商品に関するトラブルについて,専門的知見を有する者が苦情申し出を受け,双方から事情を聞く等して和解をあっせんするもの)の実施機関の一つ(FINMAC)の運用状況等の解説がなされました。
金融ADRは,訴訟による判決と異なり,審理結果の内容が詳しく公表されず,これを利用する弁護士からも実態が見えにくかったため,大変有益な講義でした。
講義によると,同機関による和解あっせん件数は,毎年増加し続け,平成22年で300件を超え,内94%程が4か月以内に終結し,また和解が成立した率は約56%とのことでした。
このように金融ADRは,比較的早期に和解が成立する状況もあるため,事案内容によっては,訴訟提起とともに有力な選択肢になってくるものと思われます。
ただし,不利な和解案を提示されないためには,あっせん委員と対等に議論できる専門家の助力が必要ではないか,また,和解案に納得できない場合には無理に妥協せず訴訟に持ち込むことも必要ではないかとも感じました。
③勝訴判決の報告
大会二日目には,全国の裁判所にて獲得された勝訴判決・勝訴的和解の報告が多数なされ,証券取引事件の立証のポイントや最近の裁判所の事件に対する姿勢を全員で共有することができました。
④さいごに
以上簡単にご紹介した全国大会の内容は,全体のほんの一部に過ぎません。
証券取引・金融商品取引は日々複雑化しており,それをめぐる規制内容や裁判所の姿勢は非常に流動的な状況です。したがって,この問題に関わる弁護士も常に最新の知識・情報を取り入れていかなければならず,日々の研鑽は不可欠です。
本研究会メンバー各人は,今後とも,全国で開催される全国大会に参加するなどして,さらに研鑽を積み,先物・証券取引被害の法的救済に尽力したいと考えております(文責:橋本有輝)。
通貨オプション取引について
今回は近頃、話題となっている通貨オプション取引とその問題事例についてご紹介します。
証券会社・銀行は,リーマンショック前後,中小企業を中心に,米ドルまたは豪ドル等の外貨のコール・オプションの買い(外貨を買う権利)とプット・オプションの売り(外貨を買う義務)を組み合わせた取引(通貨オプション取引)を勧誘していました。
その後の円高がかなり進んだことから,多くの中小企業が大きな取引損を出したり,多額の担保金が必要になる事態となり,大きな被害を出しています。
この通貨オプション取引は,仕組みが複雑で,理解が困難な商品であり,そのリスクは会社が傾く可能性があるほど大きいもので,本来,よく仕組みやリスクを理解していない者を勧誘してはならないはずの取引です。
また,通貨オプション取引は,
①証券会社や銀行との相対取引(証券会社・銀行が直接の取引相手方になる取引)で,顧客と利害相反関係に立つこと
②通貨オプション取引は,市場に上場されている取引ではなく,オプションの価格を銀行・証券会社が設定していること
③円高になると顧客が大きな損が出る可能性が出るのに対し,円安が進むと権利が消滅する条項がついており,銀行・証券会社に損が出ることが制限されており,不公平な取引になっていること
など,かなり問題点の多い取引です。
銀行は,輸入業者に対し,仕入れの円安リスクをヘッジする必要があるなどと言って,通貨オプションの取引を勧誘していました。直接輸入を行う業者ではなくても,仕入価格が間接的に為替相場の影響を受ける可能性がある中小企業に対し,円安リスクのヘッジする必要があると言って,通貨オプションの取引を勧誘することもありました。
このような勧誘では,銀行がその企業の十分なヘッジニーズの検証をすることもなく勧誘しているケースが少なくありません。
また,銀行のヘッジ目的での通貨オプション取引は,1つの契約の契約期間も3〜5年,長いものだと7〜10年のものがありますが,大企業ですら為替リスクのヘッジでこれほど長い期間のものは通常ありえないず、まして中小企業には不適合であるといった問題もあります。
当研究会では,通貨オプション取引の仕組み・リスクをはじめとする様々な問題を研究し,研鑽を重ねており,裁判所に民事訴訟を提起することも念頭に置きながら,真摯に,依頼者の方々の納得する被害の実態に合った解決を目指しております(文責:井上伸)